アラフォー母の日々と子育て

関東で暮らし、働くアラフォーです。息子と読んだ本、日々のことを綴ります。

【読書】抱擁、あるいはライスには塩を

 

 タイトル:抱擁、あるいはライスには塩を

作者:江國香織

集英社

 

私が中学生の時、夏休みになると、「ナツイチ」「夏の100冊」とかの小冊子が生徒に配られていた。

当時はネットも今ほど普及していなくて、その小冊子をめくりながら、夏休みのうちになにか一冊読んでみようとワクワクしたものだ。

当時、江國香織さんの「きらきらひかる」は毎年必ずその冊子に載っていた。

それが、私にとって、江國香織さんのファーストインプレッション。

それから夏になるたびに、なぜか江國香織さんの本を読みたくなるんだ。

 

この本は、以前読んだ本で紹介されていて、気になったので手にとった。

江國香織の最高傑作」と煽られていたっけ。

タイトルから美しい。

タイトルだけで優しい気持ちになれる。

 

この本には、「柳島家」という家族、家が登場する。

貿易会社を起こして成功した祖父、ロシア人(今は「絹」という名前)の祖母。

祖父の会社で働く父、その妻である母菊乃。

母の妹である百合叔母、母の弟である桐之輔叔父。

そして4人の子ども(望、光一、陸子、卯月)。

 

これは、3世代にわたる家族の物語であると共に、家(建物としての家)の物語でもある。

子ども4人が育つ過程の家は、エネルギーに満ちている。

犬を飼っていたり、広い庭で遊んだり、いつもにぎやかでたのしい声が聞こえている。

しかし、子どもたちは大人になって独立し、長男が結婚しても当然同居するなんていう時代ではなくなり、家族は減り、老人は死んでいく。

時代の流れと、家族の成長・老化に伴って、「家」もまた、老いていく。

でも、家にも記憶があって、楽しかったときのことをふっと思い出したりするのだろう。

大人なってからわかったことだけど、人間の中にも「家の記憶」がある。

私は今でも、子どもの時に住んでいた家(今はもうない)の夢を見たりする。

そう思うと、私が今住んでいる家は、子を産み育てるという幸せな時代を知っている家なんだな…。

 

タイトルの「ライスには塩を」というのは、

菊乃・百合・桐之輔の合言葉。

「自由万歳!」みたいな意味らしい。

大人になってライスに塩を振って良くなったことが、自由の象徴らしい。

もう一つの合言葉「かわいそうなアレクセイコフ」「みじめなニジンスキー」は、子どもたちも使うんだけど、「ライスには塩を」は、この3人しか使わないんだよね。

だから、桐が死に(桐の死は、本当に悲しかった)、菊乃、百合も死んだら、誰も言う人がいなくなってしまうんだな。

合言葉を考えた人がいなくなったらその合言葉は使われなくなる、それって至極当然のことなんだけど、それでも、なんとなく喪失感。

 

この本では、日本の社会における「普通」からそれたことがたくさん起きるけど、

普通じゃないからかわいそうだとか、不幸だとかはまったくない、悲壮感がない。

私は、運命を呪ったりする話があまり好きじゃないので(ミステリなら良いけど)、登場人物たちが皆、さいごまでたくましく生きている姿には清々しい気持ちになった。

 

くどくど説明されてはないのに、息をするように、自然と情景を思い描けた。

ちょっと厚めの本(文庫では上下巻)でしたが、幸せな読書体験でした。